2023/09/09
「BVLGARI」という表記には、ブルガリが重んじるローマの歴史と深い関わりがあります。ローマの銀細工店「ブルガリ」は、永遠の都市ローマを象徴するイタリアの代表的なジュエラーであると同時に、いまではスイスでも屈指の技術を誇るオートオルロジュリー(高級時計)のマニュファクチュールとして知られる存在です。
創業者のソティリオ・ブルガリ(1857-1934)はギリシアのエピルス地方の代々続く銀細工師の家に生まれました。技術を得るとギリシャからローマに移り、銀細工の商いを始めました。エピルス地方は銀細工で有名なエリアです。ソティリオ・ブルガリはこの地に古くから伝わる伝統的な技術と古代ギリシアと古代ローマの建築様式をベースにした意匠を組み合わせた独自のスタイルを作り上げています。
1884年、システィーナ通りにブルガリ1号店をオープンします。ブルガリの銀装飾は観光客の圧倒的な支持を集め、観光地に次々と新店舗をオープンしていきます。20世紀に入るとソティリオの二人の息子、コンスタンティノとジョルジュも経営に参加し、さらに発展を遂げます。
1940年代には太陽のような輝きを持つ金細工を始め、1950年代には貴石とカラーストーンの大胆なコンビネーションをデザインに取り入れます。この頃は、ローマでのハリウッド映画製作が盛んな時期でもありました。市内を流れるデベレ川を引き合いに「デベレ沿いのハリウッド」とも呼ばれていました。1960年代にかけて、オードリー・ヘプバーンやイングリッド・バーグマンらハリウッドスターが顧客として名を連ね、世界的な認知を得ます。
1970年代には、パリやニューヨーク、ジュネーブにも店舗を構え、アイコニックな高級時計を発表します。1975年には、ベゼルに「BVLGARI ROMA」と刻印した100本限定デジタル時計を特別な顧客にプレゼント、これがブルガリがつくった最初の腕時計です。その2年後、「ブルガリ・ブルガリ」を発売します。ベゼルに「BVLGARI BVLGARI」と刻字されたこのモデルのイメージソースが、古代パルテノン神殿の円柱大理石と、そして外周に皇帝への賛美が刻字されたコインです。
革新的なデザインを持つこの時計は一躍人気となり、今なおブルガリのアイコンであり続けています。ブルガリは「BULGARI」でなく「BVLGARI」と表記します。このスペルは、ローマのトラヤヌス記念柱の土台に刻まれた碑文から着想を得たものです。古代ローマ帝国のアルファベットでは「J」「U」「W」を使用しないことから「BVLGARI」としたのです。
「ブルガリ・ブルガリ」で時計メゾンとしての世界的認知を得たブルガリは、その後マニュファクチュールとしての道を歩み始めます。その独創的なデザイン思想が時計の世界でも認められ、1980年代初頭に「ブルガリ・タイム社」をスイスに設立しました。時計製造部門を高級時計の本場に移転したことで、ブルガリの時計の品質と性能はさらに高まっていきます。
2000年には高級時計メゾンである「ジェラルド・ジェンタ」と「ダニエル・ロート」を傘下におさめました。いずれも、創業者は著名な時計師であり、時計愛好家たちからの評価も高い優れたモデルをつくる一流ブランドです。
「ジェラルド・ジェンタ」の創業者チャールズ・ジェラルド・ジェンタ(1931−2011)は、カルティエの「パシャ」やパテックフィリップの「ノーチラス」などが代表作として知られ、「ブルガリ・ブルガリ」もその作品に含まれます。
1988年、「ダニエル・ロート」を創業したダニエル・ロート(1945-)は、歴史に埋没していたトゥールビヨンを小型化し、時計の複雑機構のひとつに昇華させた功労者です。このふたりの参加により、ブルガリの時計は大きく変わることになります。
「ソティリオ・ブルガリ」は、創業125周年を記念してスタートしました。21世紀のブルガリ時計は、ジェラルド・ジェンタとダニエル・ロートを加えたことにより、製造技術を飛躍的に向上させるだけでなく、意匠も洗練さを増していきます。また、ケース製造会社など部品メーカーも次々と傘下におさめていきました。こうしてマニュファクチュールとしての体制を整えたブルガリは、創業125周年を迎えた2010年に「時計メーカー宣言」をします。
この宣言と同時に発表したのが、同社初の自社製ムーブメント「Cal.BVL168」を搭載した「ソティリオ・ブルガリ」です。創業者の名を冠したこのモデルは、マニュファクチュールとしてのブルガリ新時代の始まりを予感させるものでした。事実、その後に発表されたモデルは、老舗高級時計メゾンを抑えて数々の賞を受賞しています。
時計メゾンとしてのブルガリには、ローマ的なデザイン思想が根底に流れています。まずローマがあり、これをさまざまな角度から再解釈して最先端の技術を用い、自分自身で時計を刷新し続けているのです。
ローマには、「イタリア文明館(文明宮)」という建築物があります。これは、古代ローマのコロッセオを直線的なデザインに再解釈した形状をしており、「四角いコロッセオ」と呼ばれるものです。
そしてまた、八角形と円形の組み合わせはローマのいたる所で発見できます。ブルガリはローマの建築物や芸術を基礎として、新古典主義的解釈により独創的なデザインを生み出し続けているのです。ブルガリのメンズ時計は非常に薄いことも特徴で世界記録を更新し続けるほどです。それでいて立体感があり陰影による奥行きを感じさせますが、これは建築物にヒントを得た光と影のコントロールによるものです。
「セルペンティ(SERPENTI)」
セルペンティはブルガリのアイコニックな蛇をモチーフにしています。蛇は太古の時代から、再生、生命の象徴としてさまざまな神話に登場し、装飾やお守り、そしてジュエリーに取り入れられてきたシンボルであり、ブルガリは、21世紀のジュエラーとして初めて蛇モチーフをウォッチデザインに取り入れたメゾンの1つです。
蛇のボディをそのまま落とし込んだデザインが大きな特徴で、1960年代には蛇の頭の中に時計のケースを収めたデザインや爬虫類独特のうろこを表現した腕時計が披露されました。
セルペンティには、イタリア語で“ガスチューブ(ガス管)”を意味する「トゥボガス」をはじめ、“麦の穂”を示す「スピガ」、薄型ケースと蛇のうろこを表現したベルトを合わせた「セドゥットーリ」などのモデルがラインナップとしてあります。加えて、ダイヤモンドなどのストーンを配したジュエリーウォッチも展開しています。
「ルチェア(LVCEA)」
“光”を意味するイタリア語の「ルーチェ」とラテン語の「ルクス」からインスパイアされたウォッチコレクションは、2014年に発売されて以来、継続的に展開されており、古代ローマに起源を持つ最古の計時機器の1つ、日時計に敬意を表した腕時計です。光輪を思わせるラウンドダイアルやリューズに配されたカボションカットのストーンが特徴です。
「ルチェア」も多彩なバリエーションで展開しています。機械式タイムピースの緻密な構造を生かしたオープンワークダイアルの「ルチェアスケルトン」やガスパイプを彷彿させる「トゥボガスブレスレット」を配した「ルチェアトゥボガス」、太陽の光を連想させるマザーオブパールのダイアルを採用した「ルチェアインタルシオ」、小ぶりな23㎜ケースに蛇のうろこのようなリンクブレスレットを組み合わせた「ピッコラルチェア」などがあります。
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