コラム詳細

2023/12/10

パシャ ドゥ カルティエ

パシャ ドゥ カルティエの誕生

1985年、このパシャの意匠を受け継いだ「パシャ ドゥ カルティエ」はアラン=ドミニク・ペランによって生み出されました。アラン=ドミニク・ペランは1975年から1998年までカルティエのCEOを務めた人物で、「カルティエウォッチのレジェンド」とも評されます。1985年のパシャ ドゥ カルティエ登場の背景には、石油禁輸に起因する1973年から1975年の世界的な景気後退や、クオーツ時計に押された高級機械式時計市場の苦戦、高級時計市場ではスチール製スポーツウォッチの台頭がありました。例えばパテックフィリップのノーチラスや、オーデマピゲのロイヤルオークは、この頃に発表され、革新的なデザインで話題を呼んでいました。

一方で1977年に発表された、ブランドの低価格ラインである「ル マスト ドゥ カルティエ」に代表される大成功に乗って、1980年代、アラン=ドミニクの創造性は絶頂期にありました。そして1985年、スポーティーで新しい時計を構想しました。それは存在感のある男性的な時計というコンセプトがベースにありましたが、あくまでカルティエらしいエレガンスを備えているのが大前提にありました。そしてこのデザインを完成させるために、ノーチラスやロイヤルオークなどのデザインを手掛け、当時のウォッチデザインのトレンドを作り出した、伝説的なウォッチデザイナーであるジェラルド・ジェンタが抜擢されました。

1985年に発表されたパシャ ラウンドウォッチは、カルティエウォッチの中でも際立っています。また、パシャは当時としては大きめの38mmケース、幅の広いベゼル、ねじ込み式のリューズとそれを留める特徴的なチェーンという、個性的なディティールでした。

多様化するパシャ

パシャ ドゥ カルティエには神話的な「フィガロブレスレット」というブレスレットを備えたモデルが存在します。これは金無垢素材で、石畳のような5列リンクの「重厚なエレガンス」を体現したブレスレットです。残念なことに、フィガロブレスレットの寿命は短く、ほどなくしてカタログから姿を消し、従来のブレスレットに置き換えられたため、現在はコレクター垂涎のディティールとなっています。

1990年、パシャ ドゥ カルティエは新しいケース素材であるステンレス スティールをコレクションに導入しました。38mmのケースサイズ、ねじ込み式のリューズカバー、さまざまなベゼルオプションなどの伝統は引き継いでいましたが、ステンレススチール製のケースは、どんな場面でも着用できる美しさと実用性を兼ね備えた時計で、シンプルでメンテナンスが容易なスイス最大のムーブメントメーカーETA製の高性能ムーブメントを備えています。

1995年に発表された「パシャC」もステンレススティール製の系譜を受け継ぎました。より小型(35mm)で、スポーティな印象を与える「H」リンクブレスレットを備えたパシャCは、パシャの歴史における新しいフェーズを表しています。また、コッパー(銅)カラーやサーモンピンクカラーの文字盤などの新しい要素も見られ、特徴的なグリッドにインスパイアされた文字盤のデザインが新鮮でした。

パシャCは若い新たな客層にアピールするだけでなく、小さなケースによって女性からの人気が高まりました。この現象は、1998年に、さまざまなオプションとよりソフトなストラップの色合いを備えた32mmケースのパシャのリリースによって確固たるものとなりました。以後パシャは正式にユニセックスウォッチとしての地位を確立します。

1997年、カルティエ創業150周年を祝う

20世紀末、世界中で150周年を祝います。たとえば、ロンドンで開かれたパーティーは大英博物館のエジプトの部屋で開催され、王侯貴族や錚々たるセレブリティが招待されました。150周年を記念したパシャは1847個の限定生産でした。この限定版はリュウズの先端にレッドスピネルが着けられました。

1998–2008年、CPCPの時代

CPCPとは「Collection Privee, Cartier Paris」の頭文字で、つまりカルティエ パリのプライベートコレクションを意味し、これは100個以下の限定リリースのコレクションでした。パシャのCPCPモデルは、パーペチュアルカレンダーのような複雑機構を備えたモデルでした。1998年にはトゥールビヨンムーブメント(姿勢差による誤差を是正する機能)を搭載したモデルが登場しました。1999年に20本の限定版として発表された「デイ&ナイト」モデルは、イエローゴールド製のパシャケースを採用し、カルティエのもう1つの象徴的な作品であるミステリークロックにインスパイアされたデザインの文字盤でした。このデイ&ナイトは、昼・夜の24時間制で時刻を表示し、先端が太陽の針は午前6時から午後6時までの円弧に対応し、一方先端が月の針は、午後6時から午前6時までの夜間時間を表示するトラックに対応しました。秒はスモールセコンドで表され、余白は「クルドパリ」の装飾によって美しく仕上げられています。尚この文字盤のデザインは、スヴェン・アンデルセンによるものです。

2005年、パシャ ドゥ カルティエ誕生20周年

2000年代は、カルティエの時計製造にとって重要な転換点となりました。ブランドは社内の時計製造施設を統合し、スイスのラ・ショー・ド・フォンにウォッチマニュファクチュールを設立します。さらにキャロル・フォレスティエ・カザピの指揮の下、独自の「オートオルロジュリー」コレクションを開発し、カルティエのハイエンドなコンプリケーションモデルを生み出しました。

2005年にはパシャ ドゥ カルティエが生誕20周年を迎えたので、スペシャルエディションが発表されました。それが「パシャ42」で、4mm大きくなったケースは、この時代のトレンドを反映していました。サイズの拡大に伴い、パシャ42ではムーブメントのアップグレードも行われました。キャリバー8000MCは、カルティエ同様、リシュモングループに属するジャガー・ルクルト(1900年以来カルティエにムーブメントを供給していた)によって製造されました。

2006年、パシャ シータイマーの誕生

パシャのスポーティなデザインは、新しいマスキュリンなデザインを実験するにはうってつけで、パシャシータイマーはそんな実験精神が結実したモデルです。100m防水を実現し、夜光塗料を塗布した文字盤や、ねじ込み式防水リュウズ、逆回転防止ベゼルなど、ダイバーズウオッチのディティールを備えていました。ラバー系素材のブレスレットもカルティエにおいては新鮮でした。

最新のパシャ

2022年の新作パシャ ド カルティエではパシャを象徴するグリッドがブラッシュアップされました。新作ではグリッドの構造が見直され、カルティエはバネと小さなクラスプでグリッドを支える仕組みを開発。これにより、グリッドの着脱が容易になりました。

まとめ

パシャは1985年に登場した、カルティエのロングセラーウォッチです。そのルーツは時計愛好家でカルティエの上顧客であったマラケシュのパシャ(太守)のためにデザインされた時計に見いだされ、1980年代のステンレスウォッチブームの波に乗って登場しました。スポーティーなエッセンスと、カルティエらしいエレガンスを兼ね備えたユニークな時計として、今もなお人気の高いカルティエウォッチです。

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