2023/12/16
ユダヤ教の慣習の中で育ったロニー・ファイグは、13歳になると「バル・ミツワー」を迎えました。バル・ミツワーは、少年が13歳になると行われるユダヤ教における“成人式”です。このとき彼のバル・ミツワーを祝いに、親戚のDavid Zがやってきました。David Zはニューヨークにある有名なスニーカーとスポーツウェアを扱う自身の名を冠したセレクトショップを経営しています。成人祝いを持ってきた彼に、ロニーは「ご祝儀は嬉しいけれど、かわりにあなたのお店で働かせてください」と頼み込んだのです。
ロニーが働き始めた1990年代後半、David Zの店舗はストリートカルチャーの発信地である、グリニッチビレッジの8番街にありました。週末には有名ヒップホップアーティストなどもDavid Zにやってきました。この気鋭のセレクトショップでロニーは経営のノウハウを学びます。ストリートカルチャーのメッカで、ロニーはJay-zやローリン・ヒルなどに接客しながら経験を積みました。同時に、そういったスターたちが自分が売った靴を履いているのをテレビやネットでみることが、彼には誇らしかったのです。
ロニーのDavid Zでのキャリアは、ストック整理から始まりましたが、販売スタッフ、ストアマネージャーとどんどんキャリアアップしていき、25歳の時にはヘッドバイヤーを務めるまでになります。このときにはアイテムを買い付けるだけにとどまらず、アシックスとのコラボレーションを行い、David Zオリジナルデザインのアシックスを、ロニー・ファイグが手掛けました。
ロニーはアシックスのあるモデルに思い入れがありました。昔、彼の母親がアシックスのGEL-LYTE III(ゲルライト スリー)を買ってきました。実はこの時、ロニーはこのモデルではなくReebokが欲しかったので、GEL-LYTE IIIのことが気に入らなかったそうですが、あるとき途端に愛着が湧いて、最終的にソールに穴が空くまで履きつぶしました。そのため、アシックスとDavid Zのコラボレーションにあたって、ロニーがGEL-LYTE IIIをベースに選ぶのは当然でした。このリミテッド エディションでは、3パターンのスニーカーがデザインされました。このリミテッド エディションのポップアップイベントが開かれ、ロニーはこのオリジナルスニーカーの誕生エピソードを、ある来場者に話しました。後日、母親から「あなたのスニーカーがウォールストリートジャーナルの一面に載っているわよ!」と電話がかかってきました。ロニーがスニーカー誕生秘話を語ったのは、同紙のエディターだったのです!
さらにこの話をアディダスの社長に話したことでDavid Z.とアディダスの「Black Tie Project」が誕生しました。ブラックタイという名前に象徴されるように、スーツにも合うような上品なスタイルを打ち出したもので、アディダスの人気モデルである「スーパースター」が真っ黒に染まり、その特徴的な三本線は光沢のある黒いパテントレザーで強調されています。
ロニー・ファイグはこのようにDavid Zでもカリスマとして、その人気の立役者として活躍しましたが、一方で独自のブランドビジョンをもっていました。様々なプロダクトによってニューヨークのバイブスを表現したいとの想いから、「KITH(キス)」というブランドを立ち上げます。2010年にショップがオープンし、ニューヨークにあるセレクトショップ「Atrium」のオーナー、サム・ベン=エイブラハムと提携します。
ロニーにはDavid Zで培った経験とノウハウがありました。ブランドはスタートから好調で、開店資金は4年間で回収できたといいます。どんどん店舗も拡大し、ニューヨークだけでなく、マンハッタンやブルックリン、マイアミビーチそしてパリや東京(渋谷)などにも支店を展開しています。ラファイエットストリートの店舗には、ポケモンとのコラボレーションでも有名なアーティスト、ダニエル・アーシャムとダブルネームの「Arsham/Feig Art Gallery」を併設しています。
Kithの店舗はアーシャム主宰のSnarkitectureによって設計されています。ショップはもはやアートギャラリーのような世界をもっており、スニーカーや服のディスプレイはもちろん、什器や小物にまで明確な美意識を反映しています。ここにはロニーの、「ニューヨークというカルチャーを体現したい」というブランドコンセプトが通底しています。
KITHはこのように、スニーカーやストリートクローズを販売するブランドですが、その人気の秘訣はプロダクト自体の魅力だけでなく、ロニー・ファイグの巧みなブランド戦略にもあります。ロニーは製品を“点”として売り出すのではなく、“線”として表現します。どういうことかというと、アディダスやナイキ、A BATHING BAPEなどとの繋がりや、アーシャムの作り上げた芸術空間でアートピースのように扱われるスニーカーは、スニーカーオタクやストリートファッションホリックだけでない、より広い層にプロダクトの魅力を伝えることができ、アイテムを多角的に“魅せる”ことができるのです。そんなコラボレーションやカルチャーに根差したイベントを頻繁に行うKITHのアクティビティからは、今後も目が離せません。ダニエル・アーシャムの世界観が作り上げた、渋谷MIYASHITA PARKの店舗は空間としても本当にカッコいいので、通りかかったらぜひ入ってみてください!
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